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大阪市で働くデザイナーのブログです。ポートフォリオ→https://hiddendesignsite.wordpress.com/

「ひとり出版社の作り方」を聞きに。サウダージブックス×松本工房

コワーキングスペース往来「小商い講座シリーズ1 ひとり出版社の作り方」が北浜のFOLK old bookstoreであり、聞きに行きました。

サウダージブックスの淺野卓夫さん×松本工房の松本久木さん。

サウダージブックスの本は今福龍太『ブラジルから遠く離れて 1935-2000 クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで』、このマゼンタの眩しい本が印象に残っていた出版社。尾崎放哉を西川勝さんが書いた本も。内容と、それをしっかり受け止めて守る背骨のようなたたずまい。松本工房は『旅する絵はがき』シリーズの存在感が気になって気になってサイトをのぞいたりしていたところでした。おしゃれだけど(だけど?)芯を感じるなあと。

 

「ひとり出版社の作り方」とはあるけれど、その環境を作ること自体は簡単だし、もともとは形態としてそうだった。必要な届けを出し、本を発刊すれば出版社と言っていい。仕事についてのトークのなかで自分史めいた話に時間を割くことは、今回の内容において確かに必須だったと思う。200ページほどあるレジュメ、質問に対する答えの掘り下げ方は異色だったような気もする。

イベント後にあらためて手に取った、それぞれが発行された本。それらがすべてをちゃんと語っているなあと感じました。すべてというのは、出版者・編集者その他もろもろ役が媒介しているもの・人・心などすべて。また、その本に関わったそれぞれの人が何かの役である前の個人の生き方すべて。

 

saudadeは「遠さ」。郷愁とも訳されるけれど、それプラス未来への憧れのようなものも含まれる、という。ブラジルの人たちが延々と歌い続け想い続けてきたテーマがsaudade。「この景色を毎日見ながら仕事をしています」という淺野さんの言葉を通じてまずこの会場に今日居合わせたみんなが視点を共有したように思う。

 

〈流通の難しさについて〉

・大手の取次会社をはさめば、日本全国の書店に発行した本が行き渡る。ただし、大量生産・大量流通したものは大量に廃棄される(「7割」って自分でメモっているけれどこれが返本の割合なのかどうか、、、。返本処理にかかる費用も出版社持ちで、在庫=資産=税金がかかる。なのでその対策として廃棄する)。取次を介した場合書店に渡る利益は本の価格の1割、取次に渡る利益は3割。「流通すること」でお金が動いており、戦後できた日本の出版流通の形態では、取次が赤字にならない仕組みになっている→肥大化したこの仕組みは世界的に見ても日本は異常、と。

→本をつくりたい人がいて本を読みたい人がいる。いい本をつくりたい。いい本を読みたい。そこは原点だろう。

(さらに、本をつくりたい人の原点として、表現世界を持っている人は複製物である本という形態でアウトプット=自らを手放さないと先へ進めない。僕が全身全霊でその世界を形にするから、一緒に作品をつくりましょう、と誘うことは多い、とは松本さん。そこでかなり読みこみ赤字も入れるそう。)

→原点的に出版ということの役割を考え、取次をはさまないという選択をして直で書店へ本を置いてもらう、あるいは、取次より低コストで直に近いかたちで書店とやりとりする。

・発行部数を少なくして、届き、読まれる本を作ることはできる。

・いい仕事をすれば次に必ずつながる。

・多く読まれる本を作るならマーケティングをしっかりすればある程度対応できる、利益も出るかも。でも本の役割は「未知」の扉をひらくことであり、もともと予想がつかない部分が大きい。「予想してそれに見合うものを提供する」という理屈に対して、造本という行為/本を読む理由(衝動?)は矛盾するもの。「造本するという行為=「お金」という物質としてくくれない利益」ととらえる著者に選ばれる出版社(でもしっかり原稿料は払っている。大手の方が人の使い方が荒い(心無い)ように、話を聞いた感じと普段働いている感じとを照らし合わせても感じた、個人的に。そしてそうなってしまうのはその仕組みゆえというのも思う)。

 

〈一冊の本の作り方、作ったあと、人に届くまでの流れ、それ以降の流れ(ざっくり)〉

・発行部数は600~2000。

・原価率(原稿料・他にかかる費用)を30%におさめるようにする/1冊にかける費用を100万と決めてまず100万用意する などのルールを決めておく(性格や出版社の主旨などから決まっていくものかなと思う)。

→それから発行に向けて読みこむ、読みこむ、読みこむ。

・儲けをいかに出すか→印刷製本費用や取次の部分でコストカット/自分でデザイン・組版/他の請負の仕事なども/発行後の広報は地道な感じ。こつこつ人に会う。待つ(最初の3か月が勝負であることはそんなに変わらないかもしれない、けれど、長く読まれそうな本・腐らない本を作っているだろう)。

・小出版社としての特色や気にかけられること(目が行き渡ること)として→本屋さんで読者に本に出会ってほしいという思いもあるし、出版の意図をくみとり応援してくれる本屋さんもいる/1冊の本に関わるすべての人に何らかのかたちで利益は出るようにする(できる)/著者が他の出版社で出した本も応援する(イベントに持っていったり紹介したりと具体的に)

 

〈課題、そのほか〉

・人手が足りない。編集、校正、組版、装丁、印刷製本、配送、営業、広報、経理。出版社から直接ネットなどで売れることはほんとに少ない。→どうするか。「待つ」。これは大事だなーと思ったし、それしかないと思う。その「待ち方」が大事で、その、「待つ」方法の1つとして代理店や取次という媒体も生まれたように思う。

・たとえば1年に1冊の出版「だけで」食べてはいけない。

・自分の仕事は自分のアイデンティティとふかく関わるはず。そこをどう意識し、心が形になる過程でどう扱うか(形而上的なものを物質としてあらしめること=作品づくり/よく分からないけれど自分のところにきたものは引き受ける)。

 

 

松本工房では『大竹野正典 劇集成』なんて出していたんだと今日知ってびっくりした。大竹野さん、父の(おそらく深い)知り合いの方だった。お金を持っていなくてさっき買えなかった。父の持っていた本、脚本のあの独特の雰囲気、それらを小学生のときに隠れてよく読んでいたし、父の思っていただろうことやそれにまつわることいろいろが、自分自身の「本」や「文字」「言葉」「人・物・物事との関係」に大きく影響しているだろうので。

・自分にとって無駄と感じることからは降りたほうがいい、ということ。そのサイクルはもともと自分(たち)がつくり自分が解釈し自分が選んできたこと。

・自分の根拠からしか物事がはじまらない、その力が出ない。

・小さいところから考えるべきだけれど、ちっちゃい考えではいけない。

と思いました。自分が今考えるべきはこどもとの時間の作り方。で、それはできる、軽々と。

ドロップアウトの話などふくめ、すごく魅力的な人たちでした。

 

サウダージブックス

松本工房